コインロッカーからバッグを提げて戻ってくると、店の明かりは消えていた、中を覗いてみても人の気配がしない。

周りを見回し、前回彼女が現れた勝手口の方へ回っても錠がかかっている。
ああ、行き違ってしまったか。
やはり、電話番号だけでも確かめておくべきだった。
さて、どうしたものか・・・

初海は怒っているか、
15分も待たしてしまったのだから・・・

自分の迂闊さに腹が立って来て、道端の畳まれた段ボール箱の束に蹴りを入れてしまった。
「段ボールが、かわいそう」
初海の声がした。

隣の店の暖簾越しに初海が笑って立っていた。

「何だ、居たのか」
「ええ」

「行き違って今日は、もうだめかと思った」
「そんなに冷たい女じゃないよ」

「ああー、良かった」
「そんなに会いたかった?私に」
ニコニコとしながら、私の腕を取って大通りの方へ歩みを促してきた。

「いや、連絡先も聞かなかった自分に腹が立ったから」
「私に会うのは、約束だからだけ・・・?」

「ああ、約束は守る、べきだ」
「ここで会えなかったら、帰るつもりだった?」
初海の意図に気づいたが、曖昧に
「まあ・・・」
「冷たいひと」

「な、何で?」
「電話は知らなくても、家は知ってるでしょ?」

「でも、いきなり行って良いのか・・・」
「だから冷たいって言うのよ。なんで急いで店を閉めたと思うのよ!」

「ああ、そうだな、悪かった」
「なら、早く行こ」

今夜もタクシーで初海の家に向かった。
初海は、バッグのジッパーを開けて中身を覗きながら面白がっていたが、底の方も探っていく内に口数が少なくなった。

家に着くと、熱くなった部屋の空気の入れ換えのために、暫く窓を開け、冷やしたビールを持ってきてくれた。
「汗かいてるでしょ、飲んだらお風呂入る?」
「いいのか?」

「いいよ、私もそのあと入っちゃう」
「いいね〜、でも風呂入っちゃうと暑くなるから、シャワーでいいや」

「そおぅ?で、下着、替えは持って来てる?」
「いや、そんな積りじゃなかったから」

「そうね、父のだけど使わなかったの有るけどそれでいい?」
「そんな・・・、悪いな・・・」

「いいのよ、いつか捨てなきゃって思ってたんだから」

「じゃあ、シャワー、お借りします」
ビールを飲み干すと立ち上がって、初海の案内で浴室に入った。
頭からシャワーを浴び、シャンプーとボディーソープの容器を確かめ、頭から洗い始めた。

暫くして、
「下着と浴衣、ここに置きますね」
と、扉の向こうで声がした。
一緒にと言いかけたが、広さもあまりないので止めておいた。

身体も洗い終わって出ると、台の上に包装されたままのパンツと浴衣が置いてあった。
それを着て居間に戻ると、初海が、バッグから荷物を取り出してテーブルに並べていた。
「あっ、出たのね、もう一杯飲むでしょ?」
と、初海が、ビールを取りに行った。

麻縄に挟まるように入れておいたバイブも、きちんと並べられ、その隣には、厚紙の箱も並んでいた、中は見たのだろうか。

雑誌類も種類別に山を分けて置かれ、これは、持ってくるとき分類したままのようだ。
初海は、ビールを置いて、浴室に行ったようだ。

これから、どうすべき、なのか・・・
どこまで許す気になっているのか?
行き成り襲ってしまうのが良いのか、
ゆっくりその気になっていることを確かめた方が良いのか?

迷った挙句、急いで、万が一にも失敗して会えなくなることを恐れて、今日のところは、共通の趣味を持つ友達という態度で臨むことにした。

初海が戻ってきた。
紺の浴衣に赤い帯がきりっとして、化粧は落としていたが、却って艶めかしい。

ビールを冷蔵庫から取り出し、隣に並んで座ると、一口飲んで、
「ふぅー、さっぱりした」

ビールを持った右の袖から覗く白い腕が、その奥を私に意識させ一層女を感じさせた。

「さっぱりしたところで、こんなドロドロしたのを見るのは、どんなもんだい?」
「生の人間を感じちゃうわ」

「生の人間か・・・、今の時期、こんなのはどう?」
初海の浴衣姿を見た時に連想した雑誌のグラビアを探して開けた。

タイトルなし

























「まあ、きれいな身体、つま先まで力が入っているのね。男の人ってこんなことして、その後どうするの?」
「もしかして、私のことを聞いている?」

「いえ、一般的にって言うことよ。この前も話したように両親がこんなことしていたかもしれないって分かってから、気持ちいいことなんだろうなって思うと同時に、汚らしいという気持ちもあって、入り込めないのよ」
「そうかー。それで色々見て、自分の気持ちを整理したいんだね」

「そうかもしれない」

「この女は、多分こういうの初めてじゃないね」
「そうね、もう良さを知っている感じ、目が誘っているもの」

「ああ、そうだ、どこから苛めてくれる?って言っているようだ」